コラム私のこれまでとこれから

カラオケ全盛期の業界最大手で 食材ロスなく、メニュー開発

コラム

東京に拠点を移して3年ほど経った頃、新たな仕事に向き合うことになりました。ご縁あってフードコーディネーターのお仕事をいただいた会社で、全国340店を超えるカラオケ店舗で使用するメニュー開発などに携わることになったのです。

パーティー需要と「一人カラオケ」、両極のニーズに応える

フードスタイリストからメニュー開発の世界へ

テレビの通販番組や大手百貨店のカタログ制作などを手掛けたフードワークスでは、緊張感のある現場でフードコーディネーターとして数々の経験を積み、フードスタイリストのスクールに通い、「味わいを視覚で伝える」スキルを高めることができました。

3年が経ち、自分でやり切った思いを持った頃、フードコーディネーターの知人の紹介で面接を受け、地域ブランディング商社のマーケティングセバスチャン株式会社での仕事が決まりました。

当初は、夜は会社が関連するカフェの厨房でイタリアン系の料理を作り、昼は会社が手がけるカラオケ業界ビッグエコーのメニュー開発に携わるという、二つの現場で仕事をしていました。
しかし、半年ほどで昼の仕事のボリュームが増えて体力的に厳しくなったほか、会社側の事情もあり、昼の仕事に専念することになりました。

業界の二極化:「パーティー需要」と「おひとり様需要」

私が入社した2011年は「カラオケ全盛期」。

食事後の二次会の場所という位置付けだけでなく、カラオケボックスに集まって食事をしながら歌って盛り上がるという利用形態が主流になっていました。

その人気の高まりに応えて業界では、レストラン顔負けの豪華で多彩なフードで女子会やパーティー需要をつかむ高付加価値を提供する流れが生まれていました。

例えば、リゾートをコンセプトにしたカラオケパセラでは、「ハニートースト」に代表されるような華やかなパーティーを意識した空間を押し出していました。

一方で、「周囲に気を遣わず好きに選曲し、一人で歌いたい」というニーズに応える「ひとりカラオケ」に代表されるような専門・効率化を提供する流れもあり、業界は「両極化」していました。

最大手の挑戦は「すべてのニーズに応える」こと

そんな中にあって、最大手のビッグエコーが挑んだのは、「どちらの流れの期待にも応える」ことでした。

全国340店舗のグランドメニューに知恵を絞る

ターゲットが異なる3つのブランド展開

「カラオケボックスの料理」と聞くと、「ポテトや唐揚げを揚げたり、枝豆を出したりで簡単じゃん」って思っていませんか? いえいえ、そんな楽なものではありません。
親会社の直営とフランチャイズを合わせて全国で340以上の店舗を持つビッグエコーは当時、ターゲット層が異なる3つのブランドを展開していました。

都市型の主力であるアルファベット「 BIG ECHO」、そして郊外のファミリー層をターゲットにしたコストパフォーマンス重視のカタカナ「ビックエコー」といったように、それぞれに明確な個性があったのです。

「ビッグエコーらしさ」を創り出すための差別化戦略

フードコーディネーターの私の役目は、単一のメニューを作るのではなく、ブランドごとの客層やコンセプトに合わせて特徴を出し分けること。
そして、それらを全店舗で速く、安定的に提供できる仕組みまで考える必要がありました。
さらには競合他社と差別化するためにも、「ビッグエコーならではの価値をどう創り出すか」という一点に向けて、日々、知恵を絞っていました。

データ分析から導き出すメニュー改廃

中でも、全店舗に共通するグランドメニューを作る時、求められるハードルはさらに高くなります。

まず、現状のメニュー一つひとつについて売上や数量データを精査しながら、残す、検討する、廃止するという判定を下すABC分析という手法でふるいに掛けていきます。
そうして現状把握した上で、社会的なトレンドを取り入れ、競合他社の傾向をリサーチし、差別化するメニューを提案します。

原価計算し、限られた食材で多彩なメニューを

限られた条件で価値を生む「仕組みづくり」

具体的には、外食産業に強い商社から仕入れる業務用食材を使い、狭いキッチンと限られた設備で様々なメニューを手早く美味しく作ること、それも常に原価計算をしながら、限られた食材を効率的に使わなければいけません。

メニューは、主食となるご飯類や麺類、パスタ、ピザから、揚げ物や中華系の小料理、サラダ、さらにはデザートやスイーツまで、多岐に渡ります。

至上命題は「食材ロスゼロ」。一つの食材から多彩なメニューへ

店舗数が多いため小さなロスが経費面を圧迫することになるので、食材ロスを出さないことは至上命題です。

唐揚げを作ったら、唐揚げ丼も作ったり、ソースをかけることでアレンジしたり。
甘辛ソースで韓国風、バジルソースを使ってイタリアンとか。
さらには、そのソースがあれば、ピザもできるね…といった具合に、とにかく目先を変えつつ食材を使い切るような提案が求められました。

経験が育んだ、現在のビジネスに活きる視点

提案したメニューは最終段階で、本部の上役の方に試食をしていただき、ボツになったり、改良を求められたりといったことを繰り返した末に、やっとメニューが決定します。
その後にはメニューブックの撮影があり、ここではフードスタイリストとしてカタログ制作などをしてきた経験が大いに生きることになります。

お客様に届けるまで、妥協のない改善が繰り返されるのです。
こうした経験で培われたマーケティング視点と、コストやオペレーションといったリアルな「現場」を知る感覚は、現在のフードビジネス、特に商品開発や企業のコンサルティングにおいて、机上の空論ではないご提案をする上での大きな強みとなっています。

タイトルとURLをコピーしました