テレビ通販番組で食品をはじめとする商品を販売する中で、商品の魅力を伝えることと同じくらい大切にしていたのが、「お客様のもとへきちんと届ける」ことでした。
「販売の裏側」を深く知る中で身に染みたのは、販売責任の重みです。そして、この時に得た「バイヤー目線」は、今に続く私の貴重な財産となっています。
『届ける』責任の裏側
通販の仕事は、商品を売るだけではありません。
メーカー様との価格交渉や品質管理の確認はもちろん、その商品がお客様の元へ確実に届くまで、すべてに責任を負います。
出荷から配送までのどこかで不都合があれば、それは「販売責任」となるのです。

信頼を支えるトレーサビリティ
もし商品に不具合があったり、食品で異物混入や健康被害が起きたりすれば、大変な問題になります。
そうした事態を防ぐのは当然ですが、万が一問題が発生した際には、原因や経緯を後追いで検証できなければなりません。
そのため、商品番号や製造年月日、産地証明、どの工程で誰が関わったかなど、製造から流通までの全情報を遡れるようにしておく必要があります。
このトレーサビリティの担保が、お客様の信頼を守るうえで非常に重要な仕事なのです。

品質を守る梱包と配送の工夫
私が担当した商品の中でも、特に食品を販売する際は細心の注意を払いました。
例えば、箱の中で商品が動いて折れたり破損したりしないよう、緩衝材の量や入れ方をメーカーの担当者様と何度も検証しました。

私が勤めていた会社は外食事業が母体で、大手百貨店向けの冷凍おせちやお惣菜も扱っていました。そのため、テレビ通販で扱う冷凍品が解けずに届くかはもとより、会社としてカタログ通販などで扱っていた賞味期限の短い生鮮品を最高の状態で届けることにも、常に気を遣っていました。
チェック項目は多岐にわたり、テレビで商品が発売される頃にはクタクタになるほどでした。
バイヤーを動かす交渉の視点
こうした「売るための見えない努力」を通して、私には「バイヤーの視点」が身につきました。
この経験が、起業して全国の中小企業様をご支援する現在の仕事を大きく支えています。
「いいですね」で終わらせない商談術
今、中小企業の皆様の展示会出展をご支援していると、「作ること」に懸命になるあまり、その先の「売る」ために必要な交渉ごとをご存じないケースにたびたび遭遇します。
販路を拡大したいなら、バイヤーと細かな取引条件を交渉する力が不可欠です。
ブースでバイヤーと話が盛り上がり、「その商品、いいですね!」と言われたのに、条件交渉に移った途端に「あ、そうですか…」と相手の顔が曇ってしまっては、それまでの時間が無駄になってしまいます。
時には“逆営業”をされてしまうことも。それでは、せっかくのチャンスがもったいないですよね。
契約に繋げる必須交渉項目
では、具体的に何を準備すべきか。
例えば、掛け率(小売価格の何割で卸すか)、やり取りできるロット数、送料の負担、帳合先(特定の卸売業者)をどうするか、といった項目です。問屋を挟むのか直接取引か、間に入る業者が増えるほど見積もりも変わります。
こうした項目について、まずは展示会の短い時間でバイヤーから「ぜひ取り扱いたい」という良い反応をもらうことが第一歩です。その後、具体的な取引条件を詰めるための個別商談へと進み、取引先としての信用を高めていきます。そして最終的に「御社から買います」という契約が成立し、取引口座が開設されて、初めて販路が一つ拓けるのです。

私は通販事業で、メーカー、小売店、大手百貨店など、様々な立場の方とやり取りする経験を通して、バイヤーの視点や交渉のポイントを現場で学んできました。そこで培った情報や交渉術が、今の支援業務に大きく役立っています。