お客様が思わず足を止め、商品を手に取ってしまう――。そんな魅力的なお店には、必ず戦略的な「商品陳列」の工夫が隠されています。
こうした視覚的なアプローチで商品の価値を高め、購買に繋げる手法は「VMD(ビジュアルマーチャンダイジング)」と呼ばれます。
難しく聞こえるかもしれませんが、基本を押さえるだけでお店の印象は驚くほど変わります。この記事では、私たち売場づくりのプロが実践している、明日からすぐに使える商品陳列の基本テクニックを6つ、厳選してご紹介します
最重要エリア「ゴールデンライン」を制する
売場で最もお客様の目に留まり、売上を左右する場所、それが「ゴールデンライン」です。このエリアをどう使うかが、お店の売上を決めると言っても過言ではありません。
ゴールデンラインとは?
お客様がかがんだり背伸びしたりせず、最も自然な姿勢で商品を手に取れる高さの範囲を指します。一般的に、目線の少し下から、自然に下ろした腰のあたりまでがゴールデンラインにあたります。

- 目安の高さ
- 身長160cmの女性: 床上60cm~145cm
- 身長170cmの男性: 床上70cm~155cm
ポイント: ターゲット顧客によってゴールデンラインは変化します。例えば、お子様向けのお菓子売場なら、子供の目線がゴールデンラインになります。
何を置くべきか? – 陳列商品のセオリー
この「一等地」には、お店が最も売りたい、知ってほしい商品を戦略的に配置します。
【置くべき商品】
- 売れ筋商品: お客様が探しているものがすぐ見つかり、満足度が上がります。
- 新商品・季節商品: お客様の目に留まりやすく、試してもらう絶好の機会になります。
- 利益率の高い主力商品: お店の利益に直結する商品をアピールします。
- セットで買ってほしい関連商品(クロスセル): 例えばパスタの棚なら、パスタソースを置くなど。
【注意点】
安売りだけの処分品や、お店のイメージに合わない商品をここに置くのは避けましょう。「このお店のおすすめはこれか」と、店舗全体の価値を下げてしまうリスクがあります。
ゴールデンラインの「上下」をどう活かすか?
ゴールデンラインを最大限に輝かせるには、その上下のスペースの使い方も重要です。
- ■ 上段(手が届きにくい場所):『魅せる』スペース
お客様の視線を引きつける「アイキャッチ」として活用します。遠くからでも売場を認識できるよう、店舗のロゴやおしゃれなPOP、商品のイメージを伝える装飾などを飾りましょう。 - ■ 下段(目線が届きにくい場所):『ストック』と『目的買い』のスペース
基本的には在庫を置くストックスペースとして活用します。また、水やお米、油といった「重くて大きい商品」や、お客様がブランドを決めて来店する「目的買い商品」を置くのにも適しています。
商品の「顔」を見せる陳列の基本「フェイス」
商品の魅力を最大限に引き出す上で欠かせないのが、商品の「顔」をどう見せるか、という考え方。これを「フェイス」と呼びます。
フェイスとは?
フェイスとは、お客様から見える商品の「顔(陳列面)」の数を指します。例えば、同じジュースを横に3つ並べたら「3フェイス」となります。
このフェイス数が多ければ多いほど、その商品はお客様の目に留まりやすくなり、存在感を増します。

ポイント: 商品には最も魅力的に見える「顔」があります。ロゴや商品名が一番よく見える面を、常にお客様に向けて陳列するのが基本です。
フェイス数の決め方 – 売上を左右する調整術
フェイス数は、やみくもに増やせば良いわけではありません。売場のスペースは有限です。売上データを見ながら、戦略的に調整していく必要があります。
- フェイスを増やす商品
- 売れ筋の定番商品: お客様が探している商品を見つけやすくします。
- 売りたい新商品・主力商品: 存在感を高め、お客様にアピールします。
- フェイスを減らす商品
- 売れ行きの鈍い商品: フェイスを減らし、空いたスペースをより売れる商品のために活用します。
【試行錯誤のヒント】
まずは売れ筋商品のフェイス数を増やし、売上がどう変化するか観察してみましょう。逆に、人気商品のフェイス数を少し減らしても売上が変わらなければ、それは「売場スペースをより有効に使えるようになった」という成功体験です。
並べ方の鉄則:「横」より「縦」を意識する
同一カテゴリの商品(例:複数のメーカーの醤油)を並べる際は、横一列に並べる「横型陳列」よりも、縦一列に並べる「縦型陳列」を強く意識しましょう。
- ◎ 縦型陳列のメリット
お客様はその場から動かずに、首を上下させるだけで、同じカテゴリの商品をすべて比較検討できます。ゴールデンラインに最も売りたい商品を置けば、自然に視線を誘導することも可能です。 - △ 横型陳列のデメリット
お客様は商品を比較するために、横に移動し続けなければならず、手間がかかります。また、棚の高さによって有利・不利が生まれてしまい、公平な比較がされにくくなります。
フェイス数の上限は?
「一押し商品は何フェイスまで増やしていいの?」と迷うかもしれません。一般的に、効果的に売上が伸びるのは「3フェイス」までと言われています。
もちろん、特売品などで圧倒的なボリューム感を演出したい場合は例外ですが、通常は3フェイスを上限の目安とし、あとは商品の種類を増やすなど、売場の有効活用を考えるのが賢い戦略です。
売場の基本動作「前進立体陳列」で活気と安心感を演出する
お客様に「このお店はいつも品揃えが豊富で活気がある」と感じてもらうための、最も基本的で重要な陳列手法が「前進立体陳列」です。
前進立体陳列とは?
通称「前出し」とも呼ばれる、商品が売れて棚の前面に空きができたら、すぐに奥の商品を前に引き出し、常に棚の最前列が商品で埋まっている状態を維持する陳列方法です。

コンビニやスーパーなど、多くの商品を扱う店舗で日々行われている、売場メンテナンスの基本動作です。
なぜ「前出し」はそれほど重要なのか?
一見、地味な作業に見えますが、「前出し」を徹底することには、お客様の購買意欲を左右する大きなメリットがあります。
- メリット①:品揃えの豊富さをアピール
棚の前面が常に商品で満たされていると、お客様は「在庫が無限にあるようだ」と感じ、品揃えの豊富さやお店の活気を印象付けられます。 - メリット②:お客様に安心感を与える
「欲しい商品が売り切れていない」という安心感は、お店への信頼に繋がります。逆に棚に隙間が多いと、「品切れ?」「管理ができていないお店かな?」といったネガティブな印象を与えかねません。
どんな商品に向いているか?
この陳列方法は、お客様が日常的に購入する商品や、手に取りやすい商品に特に有効です。
- 向いている商品
- 日用品や加工食品: 馴染みがあり、衝動買いもされやすい商品。
- 低価格帯のお菓子や飲料: 「ついで買い」を誘発しやすい商品。
- 向いていない商品
- 高級品や壊れやすい商品: 頻繁に動かすのには適していません。
- 限定品など希少性を出したい商品: 在庫が豊富にあるように見せる手法のため、「レア感」の演出とは逆効果になります。
「前出し」を継続するための仕組みづくりのポイント
最も重要なのは、この作業をいかに効率化し、継続できる仕組みを作るかです。
- 方法①:什器(じゅうき)の工夫
商品が売れると、重力で奥の商品が自動的に前にスライドしてくる「傾斜棚」や「先入れ先出し什器」を導入するのが最も効率的です。 - 方法②:ルール化と習慣化
人の手で行う場合は、「レジが空いた時間に担当者がチェックする」「朝・昼・夕のピーク前に必ず前出しを行う」など、作業をルーティン化するルールを作りましょう。担当者任せにせず、店舗全体の習慣にすることが成功の鍵です。
迫力と活気で魅せる「ボリューム陳列」
お店の「今、一番売りたい!」という想いを、お客様に最も強くアピールできるのが「ボリューム陳列」です。お祭りのような活気と賑わいを演出し、お客様の購買意欲を掻き立てます。
ボリューム陳列とは?
「単品大量陳列」とも呼ばれ、特定の一つの商品を大量に、ダイナミックに積み上げて見せる陳列方法です。
スーパーの入口にある特売品の山積みや、壁一面に並べられた季節の飲料などが代表的な例です。

ボリューム陳列がもたらす3つの効果
ただ商品をたくさん並べるだけに見えますが、この陳列にはお客様の心理に働きかける強力な効果があります。
- アイキャッチ効果(視線を集める):
圧倒的な物量は、遠くにいるお客様の視線も引きつける強力なアイキャッチになります。「何か特別なことをやっているぞ」という期待感を抱かせ、集客に繋がります。 - 安心感と購入ハードルの低下:
「こんなにたくさんあるのだから、一つくらい取っても大丈夫だろう」という安心感が働き、お客様は気軽に商品を手に取りやすくなります。 - お得感と信頼性の演出:
「これだけ大量に仕入れられるのは、人気があって売れている証拠だ」「きっとお得に違いない」といった印象を与え、商品の信頼性を高めます。
どんな商品・タイミングで使うべきか?
ボリューム陳列は、常に同じ商品で行うと効果が薄れてしまいます。「ここぞ!」というタイミングで、戦略的に商品を絞って実践するのが成功の鍵です。
- 最適な商品
- 季節商品: お正月のお餅、バレンタインのチョコレートなど。
- 特売品・セール品: お得感を最も分かりやすく伝えられます。
- 色鮮やかな商品: トマトやオレンジなど、色が美しい商品は山積みにするだけで売場が華やかになります。
- 安定して積み上げられる商品: 缶詰、ペットボトル、袋菓子など。
- 避けるべき商品
- 崩れやすい、安定感のない商品: お客様に不安感を与えてしまいます。
- 高級品: 大量に積むと、商品の価値が安っぽく見えてしまう可能性があります。
ボリューム陳列を成功させるポイント
ただ積むだけでなく、一工夫加えることで効果はさらに高まります。
- 「崩れ」を演出し、手に取りやすくする
完璧なピラミッド型に積むと、お客様は「崩してはいけない」と遠慮してしまいます。あえて山の一部を少しだけ崩したり、手前にバラで商品を置いたカゴを用意したりして、「ここから取っていいですよ」というサインを送りましょう。 - 定期的に商品を変え、鮮度を保つ
「あのお店に行けば、いつも何か面白いものがある」とお客様に期待させるため、陳列する商品は定期的に入れ替えましょう。これが、POPや声出しに頼らずとも、楽に販売数を伸ばす秘訣です。
宝探し体験を演出する「圧縮陳列」
あえて商品をぎっしりと詰め込み、ジャングルのように見せることで、お客様に「宝探し」のようなワクワク感を提供する。それが「圧縮陳列」です。整理整頓を基本とする他の陳列とは真逆の発想から生まれた、上級テクニックと言えるでしょう。
圧縮陳列とは?
圧縮陳列とは、限られたスペースに商品を隙間なく詰め込み、あえて雑多で無秩序な空間を演出する陳列方法です。
ドン・キホーテ様やヴィレッジヴァンガード様のような、探す楽しさそのものを価値として提供する店舗で採用されています。
圧縮陳列がもたらす「意図的な衝動買い」
この陳列の最大の目的は、お客様に買い物を「レジャー」として楽しんでもらうことにあります。
- 宝探しの高揚感:
ジャングルのような店内を探索するうちに、思いがけない商品と出会う楽しさを提供します。この「発見の喜び」が、お客様の購買意欲を刺激します。 - リピート来店への動機付け:
「売り切れたら終わり」という一期一会の商品構成にすることで、「次に来たらもう無いかもしれない」という心理が働き、来店するたびに新しい発見があるお店として、リピーターの獲得に繋がります。
どんな店舗・商品構成が向いているか?
圧縮陳列は、あらゆるお店で成功するわけではありません。「探す楽しさ」が成立する、特定の業態や商品構成が求められます。
- 最適な店舗・商品
- 多種多様な商品を扱う雑貨店やディスカウントストア: ブランド品から日用品まで、脈絡のない商品が隣り合っていることが、発見の驚きを生みます。
- 仕入れが流動的な店舗: 行くたびに商品が入れ替わることで、「宝探し」の価値が高まります。
成功の鍵は「計算された無秩序」
圧縮陳列は、ただ商品を雑然と置くこととは全く異なります。お客様の「衝動買い」を誘発するための、緻密な仕掛けがあって初めて成立します。
- ポイント①:POPによる強力なナビゲート
商品が探しにくい分、「なぜこの商品がおすすめなのか」「どんな人が使うと便利なのか」を伝える手書きPOPの役割が極めて重要になります。商品の価値を短い言葉で伝え、お客様の足を止めさせることが成功の鍵です。 - ポイント②:戦略的な通路設計
お客様がつい店の奥まで進んでしまうような、回遊性の高い通路設計が求められます。行き止まりをなくし、角を曲がるたびに新しい発見があるようなレイアウトを意識しましょう。 - ポイント③:「掘り出し物」の演出
段ボールのまま商品を陳列するなど、あえて「整えすぎない」演出も効果的です。これが「安さ」や「掘り出し物感」に繋がり、お客様の購買心理を後押しします。
商品の価値を最大化する「展示陳列」
特定の商品を「作品」のように際立たせ、お店の世界観やブランドイメージを強く印象付ける。それが「展示陳列」です。商品の価格以上の価値をお客様に感じさせることができる、非常にパワフルな陳列手法です。
展示陳列とは?
「シンボライズ陳列」とも呼ばれ、少数の商品を主役に、照明や装飾、空間の使い方まで計算し尽くして、商品の持つ魅力を最大限に引き出す陳列方法です。
百貨店のショーウィンドウや、ブランドショップのディスプレイをイメージすると分かりやすいでしょう。

展示陳列がもたらす効果
この陳列の目的は、単に商品を売ることだけではありません。
- ブランドイメージの向上:
洗練された空間は、お店全体のセンスの良さや専門性をアピールし、ブランド価値を高めます。 - 商品の高付加価値化:
美しいディスプレイは、商品の価値を本来の価格以上に高めて見せる効果があります。「このお店が推薦するのだから、きっと良いものだ」という信頼感にも繋がります。 - 潜在ニーズの喚起:
お客様自身も気づいていなかった「こんな素敵なものが欲しかった」という潜在的なニーズを引き出し、新たな購買意欲を喚起します。
どんな商品・場所で使うべきか?
お店の「顔」となる場所に、最も伝えたいメッセージを込めた商品を配置するのがセオリーです。
- 最適な商品
- 新商品や看板商品: お店が今、最も注目してほしい商品。
- 高価格帯の商品: 高級感を演出し、価値を正しく伝える必要がある商品。
- デザイン性の高い商品: 商品自体が持つ美しさを際立たせることができます。
- 最適な場所
- 店舗の入口(VP): お客様が最初に見る場所で、お店の世界観を伝えます。
- 壁面の上部スペース: お客様の手が届かない分、「魅せる」ことに特化できます。
- レジ周りの空間: お客様が必ず通る場所で、商品を印象付けます。
展示陳列を成功させる3つの基本テクニック
センスが問われるように見えますが、基本の型を知るだけで、誰でも美しいディスプレイを作ることができます。
- 三角構成(トライアングル陳列):安定感と視線誘導の王道
商品を三角形の頂点に配置する手法です。最も背の高い商品を中央奥に置き、手前に向かって低くしていくことで、視覚的な安定感が生まれます。お客様の視線を自然に頂点の商品へ集める効果があります。 - シンメトリー陳列(左右対称):フォーマルさと高級感を演出
中央の軸を基準に、左右対称に商品を配置する手法です。均整の取れた美しさは、フォーマルで格調高い印象を与えます。高級ブランドのディスプレイなどで多用されます。 - リピテーション陳列(繰り返し):リズムとインパクトを生む
同じ商品や同じ形、同じ色を、等間隔で繰り返し配置する手法です。リズミカルな反復は、お客様の視線を引きつけ、強いインパクトを与えます。
これらのテクニックを組み合わせ、商品やブランドが持つストーリーやテーマ性を一貫して表現することが、展示陳列を成功させる最大のポイントです。
売れる売場は「基本」の積み重ねから
今回は、売れる売場づくりに欠かせない6つの基本的な陳列テクニックをご紹介しました。
- ゴールデンライン: 最も売りたい商品を、お客様が一番手に取りやすい場所に。
- フェイス: 商品の「顔」を意識し、「縦」のラインで見やすく。
- 前進立体陳列: 「前出し」を徹底し、活気と安心感を演出。
- ボリューム陳列: 「一点集中」で商品の迫力と特別感をアピール。
- 圧縮陳列: 「宝探し」の楽しさで、お客様の滞在時間と購買意欲をUP。
- 展示陳列: 商品を「作品」として見せ、お店の世界観を伝える。
一つひとつはシンプルなテクニックですが、これらを意識して組み合わせることで、お客様の心を動かす魅力的な売場が生まれます。
まずは、あなたのお店の「ゴールデンライン」に、今一番売りたい商品が置かれているか、そこからチェックしてみてはいかがでしょうか。
この記事が、あなたの売場づくりのお役に立てれば幸いです。


