※この記事では、私が独立前に会社員として経験した、現在のコンサルティングの原点となるプロジェクトについてお話しします。
「自信を持っておすすめできる、本当に美味しい商品がある。でも、その魅力がお客様に伝わらない…」
作り手であれば誰もが一度は抱えるこの深い悩み。私自身も、キャリアの中で忘れられないほど高い壁として、この問題に直面した経験があります。
当時、私が所属していた会社は、ある商品の日本総代理店として、ブランディングから販売卸までを手掛けていました。その商品とは、オランダ王室御用達の“トロニシン”とも称される、『クラウンマッチェス』。
このプロジェクトの中で、私は展示会での販売戦略と、その要となるレシピ開発という重要な役割を担いました。今回は、この経験を通じて、私が「商品の価値をどう届けるか」という答えを見つけ、現在の仕事の礎を築くまでのプロセスをご紹介します。
立ちはだかった壁:日本の“みがきニシン”と「シュールストレミング」の呪縛
日本の「みがきニシン」とオランダのニシンの違い
日本の「ニシン」は、主に乾燥させた保存食である「みがきニシン」を指し、甘露煮などで加熱調理されます。一方、オランダの「クラウンマッチェス」は、熟成させた塩漬けで、生のまま食される全く異なる食材です。この根本的な食文化の違いが、当時の大きな壁でした。
産卵経験のない若いニシンのみを使用した、まさに“トロ”の名にふさわしい「クラウンマッチェス」。
しかし、その素晴らしい品質とは裏腹に、日本のバイヤーの方々の反応は非常に厳しいものでした。
「ああ、あの“みがきニシン”みたいな? ニシン?」
そして、さらに根深い問題がありました。それは、一部のバイヤーの頭の中にあった、「シュールストレミング」の強烈なイメージです。「海外の魚の発酵食品=強烈な匂い」という先入観から、「これもそういう類のものではないか?」と、口にする前から敬遠されてしまうのです。
日本の食文化に根付いた「みがきニシン」のイメージと、世界一臭い食べ物とも言われる「シュールストレミング」の呪縛。この二重の壁を前に、私たちは商品の真価を伝えることすらできずにいました。
突破口は「食べ方の翻訳」。日本の食卓に合わせた戦略
この強固な固定観念をどう乗り越えるか。
議論を重ねる中で、私が強く提案し、任されたのが「日本の食文化に合わせて“食べ方を翻訳”し、新しい物語を提案する」という戦略でした。
まずは、オランダ現地のベーシックな食べ方を、日本の市場に合わせてアレンジして紹介することから始めました。玉ねぎやピクルスと合わせた爽やかなマリネはもちろん、家庭や店舗でも手軽に調理でき、ピザのトッピングにしたり、バケットに挟んでサンドイッチにしたり、生ハムやチーズと共に楽しむバル風のスタイルを提案。さらに、意外な使い方としてパン粉を付けてフライにするなど、手軽でモダンな洋風の食シーンを複数提示しました。
そして、日本のバイヤーに最も響くであろう「決定打」として私が考案したのが、手まり寿司や押し寿司といった「和のレシピ」です。あえて日本の食卓のシンボルである寿司にすることで、「これは新しい和食の食材なのだ」と直感的に理解してもらう狙いでした。
「旨い、驚いた!」― レシピが覆した、商談の空気
レシピ開発後、私たちは大規模な食品展示会をはじめとしたイベントに出展しました。

展示会場では、「オランダ王室御用達」というイメージを強調したポップと共に、私が考案した様々な食シーンを提案。商品説明と試食へと繋げる中で、特に和風レシピへの関心が高く、「押し寿司なら食べてみたい」と試食が進みました。
すると、これが大成功!
試食によって、日本のニシンに対するイメージが覆り、その場で次々と商談へと進んでいったのです。
その際、バイヤーさんからは、
「旨い、驚いた! ニシンのイメージが変わった!」
「洋風のイメージがあったけど、和風にも使えるのね!」
との、大変嬉しいお言葉を頂きました。
また、後日オランダ大使館で行なったイベントでは、本場オランダの方々からもお褒めの言葉を多数頂くことができ、このアプローチが正しかったことを確信しました。
まとめ:商品の価値は「伝え方」で決まる。この経験が私の原点
この「クラウンマッチェス」の事例から私が得た、最も大きな学び。それは、「商品の価値は、お客様の文化や固定観念に合わせて『伝え方』を翻訳することで、何倍にも輝かせることができる」という確信です。
どれだけ素晴らしい商品でも、その価値が伝わらなければ、存在しないのと同じです。
作り手の想いを、お客様が「自分ごと」として感じられるストーリーへと翻訳し、届けること。
この経験こそが、現在のFood+Createのすべてのサービスの根幹をなす、私の原点となっています。


